さらに歩いてゆくと、突然石段が現れた。
誰が何に使うのか、全く不明の、突発的な石段だった。
ね、これ、誰が使うんだろう。
歩いた痕、ほとんどないね。
使われてないってことなのかな。
使われない石段だから、こんなにきれいに花びらが残ってるんだ。
その辺りに桜の樹はなかった。もっと離れた場所に桜の樹は並んで植わっている。
その樹の花びらが、ここまで風に乗ってやってきた、ということか。
それにしても夥しい数の花びら。しかも、足跡も何もない、はらりと落ちたばかりに見える美しい形の花びらたち。
堆積してるね。
うん、きっといろんなものが堆積してる。
花びら、時間、枯葉、歴史…
そうだね、本当にいろんなものが堆積してる場所なんだ。
どう考えても、用を足しそうにない石段だった。でも、この石段に舞い降りた花びらは、ひときわ輝いて見えた。
まるで、花びらのために用意された、そんな石段だった。
ここ、歩いちゃいけないね。
そうだね、別のところ行こう。
私たちはそう言い合って、立ち上がった。そうして、大きく迂回し、石段を後にした。