2010年8月13日金曜日

虚影(7)


私たちは、被害に遭ったことで、いろいろな縁を失った。
友人との緒、親との緒、世界との緒。
そうしてすっかり取り残されて、ぽつん、
知らない場所に、放り出された。

これまで無条件に信じていられた世界が、がらり、手のひらを返し。
これまで当たり前にあった出来事が、もはや、当たり前ではなく。
気づけばありとあらゆることが、ひっくり返って、そこに転がっていた。

瓦礫と化した街を、私たちはとぼとぼと歩いていた。
何処へ行けばいいかの地図も、何もなかった。
私たちは彷徨って彷徨って彷徨って、そうしているうちに足の裏は擦り切れ、
血の足跡がぽつりぽつり。

陽炎のように時折、これまで当たり前に在ったはずの世界が垣間見えることがある。
思わず私たちは手を伸ばす。伸ばすのだけれど。
瞬く間に陽炎は消える。
私たちの手はただ、宙を掻くのみ。