過去になんかそう簡単にならないよね。
彼女が言う。
過去にしたいのは、誰よりも私自身なんだよ。なのに、過去になってくれない。何処までも何処までも追いかけてくる。
それなのに周りは、「もう忘れなさい」とか「一体もう何年前の事だと思ってるの、いい加減にしなさい」と言う。どうしてそんなことが言えるんだろう。
彼女が呟く。
私は黙って、シャッターを切り続ける。
みんな結局、他人事なんだよね。自分は大丈夫、自分だけは大丈夫、って信じてる。信じて疑わない。被害に遭うのは特別な人間だけだって、そんなふうに思ってる。
でも。
私だって被害に遭うまで、自分が被害に遭うなんて思ってもみなかった。望んでもいない。それなのに。
彼女はじっと、何処か一点を凝視している。
私はそんな彼女を、ただじっと、見つめている。