2010年8月11日水曜日

虚影(5)


どうして私たち、今もこんなところで生きているんだろう。
彼女が呟く。
どうしてだろうね。
私は返事をする。
死ねる人だっているのに、どうして私は生き残ってるんだろう。
私は黙って耳を傾けている。
私なんかが生き残る意味、いまさら一体何処にあるというの。

彼女は言いながら、泣いていた。
同時に、
嘲笑っていた。
もはや嘲笑ってしか、自分を支えていられないかのように、嘲笑って、泣いていた。

私のすべてを奪った加害者。
私のすべてを壊した加害者。
今ものうのうと世界で生きていて、
平然と次の獲物を探しているかもしれない加害者。
他の誰が赦せたとしても、
私は決して、赦すことなんかできない。

彼女は淡々と、そう言った。
私も淡々と、その言葉を聴いていた。

風が流れ、私たちの髪を揺らしていく。
陽射しはやわらかく、私たちを包んでいる。
でもすべてが
すべてが遠いのだ。
世界のありとあらゆるもの、すべてが。遠い。