焼く時はただひたすら
祈りながら焼いた。
何処までも深く深く、誰の事もどんな事をも受け容れるだけの深さが、同時に浅はかさが欲しい、そう祈りながら。
届くだろうか、貴方に、届いてくれるだろうか。
貴方の中のいとおしい景色の破片に、何処かで繋がってくれるだろうか。
もしすぐに繋がることがなくても、仄かに匂いくらいは、そう、まるで残り香のように、貴方の内奥へと、伝わっていって、くれる、だろうか。
そう祈りながら、これらの作品を「幻霧景」と名付け、世界に送り出します。
「幻霧景」と貴方と、しばしの間でも見つめ合ってもらえたら、幸いです。
2005年11月 にのみやさをり/「幻霧景」という名の光景について
2011年9月15日木曜日
2011年9月1日木曜日
幻霧景Ⅰ-16
誰の中にも、恐らくあるであろう、
帰りたい景色。
でもそれは決して、たとえば「旧き良き日本の風景」というような、特定の場所や時を指示してしまうものではなく、もっとこう、具体的な形がすっかり溶け果てた後に残る、一つの小さな塊、或いは芯、といったようなもの。
とても懐かしく、同時に途方もなく切なくて残酷で、そして、何処までもやさしくやわらかい、
帰ろうとする者をすべてあるがままそのままに受容するであろう仄景色。
そういったものを、私は、描きたいと思った。
まだ夜が明ける前の、朝露に濡れる芝の上を走り、転がり、横たわり。
そして、ぱっくりと明けた東の地平線から真っ直ぐに伸びて来る陽光は、瞬く間に辺りを照らし始め。
それまでおぼろげでしかなかった様々な世界の輪郭が、露わになってゆく、そんな中で、撮影した。
(続く)
帰りたい景色。
でもそれは決して、たとえば「旧き良き日本の風景」というような、特定の場所や時を指示してしまうものではなく、もっとこう、具体的な形がすっかり溶け果てた後に残る、一つの小さな塊、或いは芯、といったようなもの。
とても懐かしく、同時に途方もなく切なくて残酷で、そして、何処までもやさしくやわらかい、
帰ろうとする者をすべてあるがままそのままに受容するであろう仄景色。
そういったものを、私は、描きたいと思った。
まだ夜が明ける前の、朝露に濡れる芝の上を走り、転がり、横たわり。
そして、ぱっくりと明けた東の地平線から真っ直ぐに伸びて来る陽光は、瞬く間に辺りを照らし始め。
それまでおぼろげでしかなかった様々な世界の輪郭が、露わになってゆく、そんな中で、撮影した。
(続く)
2011年8月30日火曜日
幻霧景Ⅰ-15
すうっと風が通り過ぎた後、ふと私は少女に近寄った。
彼女のアップを撮りたいと思ったからだ。
何も云わずカメラを構えたまま私は近づいてゆく。
鼻歌を歌いながら空を見上げていた少女が、私に気づいてじっとこちらを見つめて来る。
気づけば彼女は鼻歌を止めており。ただただこちらを、じっと見つめるのだった。
一瞬こちらが怯んでしまいそうなほど真っ直ぐな瞳。
それは澄み渡る空と同じように透明で。
いとおしかった。
東の空は明るく光溢れ。
さんざめく緑が風にさらさらと揺れている。
彼女のアップを撮りたいと思ったからだ。
何も云わずカメラを構えたまま私は近づいてゆく。
鼻歌を歌いながら空を見上げていた少女が、私に気づいてじっとこちらを見つめて来る。
気づけば彼女は鼻歌を止めており。ただただこちらを、じっと見つめるのだった。
一瞬こちらが怯んでしまいそうなほど真っ直ぐな瞳。
それは澄み渡る空と同じように透明で。
いとおしかった。
東の空は明るく光溢れ。
さんざめく緑が風にさらさらと揺れている。
2011年8月26日金曜日
幻霧景Ⅰ-14
おもむろに樹に寄りかかる彼女と、高みを見つめる少女と。
彼女らをフレームに捉えながら、私は思っていた。
私たちに懐かしい場所があるとして。
もちろん誰しもにそれは在るだろう。たとえば祖母の庭、たとえば母の懐、たとえば。
でもそうじゃない、もっともっと深い、懐かしいの根底にある何か。
それをどうやったら形にできるだろう。
爽やかな風が鳥たちの囀りを乗せて芝生を渡ってゆく。
彼女らをフレームに捉えながら、私は思っていた。
私たちに懐かしい場所があるとして。
もちろん誰しもにそれは在るだろう。たとえば祖母の庭、たとえば母の懐、たとえば。
でもそうじゃない、もっともっと深い、懐かしいの根底にある何か。
それをどうやったら形にできるだろう。
爽やかな風が鳥たちの囀りを乗せて芝生を渡ってゆく。
2011年8月22日月曜日
幻霧景Ⅰ-13
少女が真っ先に靴をはいた。まだ幼い彼女はこの時、何を考えて何を思っていたのだろう。もしかしたら先ほど約束したアイスクリームのことなど考えていたのかもしれない。
夜明け前からの撮影、疲れたろうに、そんな顔はこれっぽっちも見せず、むしろ少女はうきうきと楽しげに見えた。
すっかり陽射しに掻き消された霧。まさに幻のようにそれは消え去った。
今ここにあるのは流れ往く風と陽射しと樹々と、それらの醸し出す心地よい匂い。
私たちは誰ともなく深く深呼吸していた。その匂いを胸いっぱいに吸い込んで。
見上げる空は、水色の水彩絵の具をざっと平筆で引いたみたいに美しかった。
夜明け前からの撮影、疲れたろうに、そんな顔はこれっぽっちも見せず、むしろ少女はうきうきと楽しげに見えた。
すっかり陽射しに掻き消された霧。まさに幻のようにそれは消え去った。
今ここにあるのは流れ往く風と陽射しと樹々と、それらの醸し出す心地よい匂い。
私たちは誰ともなく深く深呼吸していた。その匂いを胸いっぱいに吸い込んで。
見上げる空は、水色の水彩絵の具をざっと平筆で引いたみたいに美しかった。
2011年8月17日水曜日
幻霧景Ⅰ-12
気づけばすっかり夜は明けており。燦々と降り注ぐ陽射しが眼に眩しかった。
そろそろ撮影も終盤。三人が三人とも、口に出さないけれどそれを感じていたのだろう。
林の端に位置する小さな丘の中ほどに、一本の樹が立っており。二人はその樹に今寄りかかっていた。
その樹は他の樹とは種類の異なる樹で。一本だけ、大きく大きくそこに茂って在るのだった。
三人共、足の裏はもうすっかり泥だらけで。でも、その泥だらけの足がなぜか心地よいのだった。土は肌にやさしい。私にはそう思える。
そろそろ撮影も終盤。三人が三人とも、口に出さないけれどそれを感じていたのだろう。
林の端に位置する小さな丘の中ほどに、一本の樹が立っており。二人はその樹に今寄りかかっていた。
その樹は他の樹とは種類の異なる樹で。一本だけ、大きく大きくそこに茂って在るのだった。
三人共、足の裏はもうすっかり泥だらけで。でも、その泥だらけの足がなぜか心地よいのだった。土は肌にやさしい。私にはそう思える。
2011年8月12日金曜日
幻霧景Ⅰ-11
この年、蝉が実にたくさん羽化していた。
この朝も、あっちこっちに脱ぎ捨てられた蝉の抜け殻が転がっていた。女の子がそれを、ひとつ、またひとつ、拾ってはポケットにいれてゆく。
撮影が終わる頃には、その抜け殻はポケットの中、くしゃくしゃになっているのかもしれない。それでも彼女は、ひとつ、またひとつ、ポケットに抜け殻を入れてゆく。大事そうに。
その時ふわぁっと東からの陽光が弾け。少女の髪がきらきらと輝いた。まさに天使の輪がその髪を彩っていた。
この朝も、あっちこっちに脱ぎ捨てられた蝉の抜け殻が転がっていた。女の子がそれを、ひとつ、またひとつ、拾ってはポケットにいれてゆく。
撮影が終わる頃には、その抜け殻はポケットの中、くしゃくしゃになっているのかもしれない。それでも彼女は、ひとつ、またひとつ、ポケットに抜け殻を入れてゆく。大事そうに。
その時ふわぁっと東からの陽光が弾け。少女の髪がきらきらと輝いた。まさに天使の輪がその髪を彩っていた。
2011年8月8日月曜日
幻霧景Ⅰ-10
靄につつまれていた風景が露わになり、緑の芝がくっきりとその姿を現し出した。そこに横たわる二人。
しんしんと、静かな時間が流れていた。
そういえば花がないね。そんなことを彼女が呟き、私は辺りを見回した。あぁ季節の狭間のせいかもしれない、花らしい花が今咲いていない。改めて気づく。
夏の終わり、少女はふとしたときに物憂い眼差しをしてみせる。まだそんな年齢でもないだろうにと思った直後、思い直した。
この一瞬、一瞬のうちにも、彼女は成長しているのだ。そう、この撮影の間にも。
しんしんと、静かな時間が流れていた。
そういえば花がないね。そんなことを彼女が呟き、私は辺りを見回した。あぁ季節の狭間のせいかもしれない、花らしい花が今咲いていない。改めて気づく。
夏の終わり、少女はふとしたときに物憂い眼差しをしてみせる。まだそんな年齢でもないだろうにと思った直後、思い直した。
この一瞬、一瞬のうちにも、彼女は成長しているのだ。そう、この撮影の間にも。
2011年8月5日金曜日
幻霧景Ⅰ-09
この頃私はまだ、自分の腕を切り刻んでしか今日を越えることができない位置にいた。
そんな私にとって、「暗室」が味方だった。
自傷の発作の波が襲ってくる、その予感を感じたらだから私は、速攻で風呂場に飛び込み、暗室を作り、プリント作業を始めた。
その作業だけが、私を、自分の腕を切り刻むことなしに夜を越えさせる、唯一の術、だった。
だからかもしれない。
時間を見つけては、彼女らをフィルムに刻み込んでいた。彼女らの季節季節に立ち会い、フィルムにその姿を刻み込み、プリントしていた。
そんな私の隠した姿を責めることもなく、彼女らはいつも、付き合ってくれた。
夜明けからだいぶ時が経った。だんだんと肩に背中に、東から真っ直ぐに伸びて来る陽ざしを感じるようになっていた。それは一刻一刻強くなってゆく。
そんな光溢れる中、私達は佇み、歩き、歩いてはまた佇んでを繰り返していた。
そんな私にとって、「暗室」が味方だった。
自傷の発作の波が襲ってくる、その予感を感じたらだから私は、速攻で風呂場に飛び込み、暗室を作り、プリント作業を始めた。
その作業だけが、私を、自分の腕を切り刻むことなしに夜を越えさせる、唯一の術、だった。
だからかもしれない。
時間を見つけては、彼女らをフィルムに刻み込んでいた。彼女らの季節季節に立ち会い、フィルムにその姿を刻み込み、プリントしていた。
そんな私の隠した姿を責めることもなく、彼女らはいつも、付き合ってくれた。
夜明けからだいぶ時が経った。だんだんと肩に背中に、東から真っ直ぐに伸びて来る陽ざしを感じるようになっていた。それは一刻一刻強くなってゆく。
そんな光溢れる中、私達は佇み、歩き、歩いてはまた佇んでを繰り返していた。
2011年8月1日月曜日
幻霧景Ⅰ-08
写真を撮らせてもらうとき、必ず確かめることがある。
「裸足になってもらえますか?」ということ。
それがアスファルトだろうと土だろうと、裸足の足で歩いてほしい、それを撮りたい、というのが私の中に在る。
直に感じてほしいと思うのだ。
アスファルトならアスファルトの固さを、土なら土のぬくみを、肌で直に感じてほしいと思うのだ、せめて撮影の間くらい。
人はいつの間にか、何枚も何枚も衣を着こんで、肌で世界に自然に触れる部分がどんどん減って来ているように思う。
別に裸になればいいとは思わない。ただ。
世界の呼吸を、鼓動を、自然の呼吸を温度を、感じることは忘れてほしくない、と思う。
だからもちろん撮影している私も裸足だ。
カメラを持ちながらぬかるみでつるりんと滑りかけること多々あるが、それでも、彼女らと同じように裸足になり、走り回り、這い回り、そうやって、撮り続ける。
「裸足になってもらえますか?」ということ。
それがアスファルトだろうと土だろうと、裸足の足で歩いてほしい、それを撮りたい、というのが私の中に在る。
直に感じてほしいと思うのだ。
アスファルトならアスファルトの固さを、土なら土のぬくみを、肌で直に感じてほしいと思うのだ、せめて撮影の間くらい。
人はいつの間にか、何枚も何枚も衣を着こんで、肌で世界に自然に触れる部分がどんどん減って来ているように思う。
別に裸になればいいとは思わない。ただ。
世界の呼吸を、鼓動を、自然の呼吸を温度を、感じることは忘れてほしくない、と思う。
だからもちろん撮影している私も裸足だ。
カメラを持ちながらぬかるみでつるりんと滑りかけること多々あるが、それでも、彼女らと同じように裸足になり、走り回り、這い回り、そうやって、撮り続ける。
2011年7月28日木曜日
幻霧景Ⅰ-07
ふたりを撮るのは数度目なのだけれど。
そのたび思う。このふたりは親子のように似ているな、と。実際、以前発表した作品では、数人の方から「このおふたりは親子ですか?」と尋ねられた。
何だろう、顔が、というよりも、醸し出す雰囲気が、妙に似ている。
しんとした森林公園。そろそろ夜も明けて、ちらほらと犬の散歩やウォーキングをする人達の姿が。
私達は、その人達の間を縫って、隙間を見つけては立ち止まり、撮影を続けた。
うまく言えない。うまく言葉が見つからない。が。
ふたりは、決して自分のペースを崩さないところが、似ている。周りにどんな、誰がいようと、自分のペース、自分のテンポは譲らない、崩さない。
だから私は安心して、カメラを構えていられる。
そのたび思う。このふたりは親子のように似ているな、と。実際、以前発表した作品では、数人の方から「このおふたりは親子ですか?」と尋ねられた。
何だろう、顔が、というよりも、醸し出す雰囲気が、妙に似ている。
しんとした森林公園。そろそろ夜も明けて、ちらほらと犬の散歩やウォーキングをする人達の姿が。
私達は、その人達の間を縫って、隙間を見つけては立ち止まり、撮影を続けた。
うまく言えない。うまく言葉が見つからない。が。
ふたりは、決して自分のペースを崩さないところが、似ている。周りにどんな、誰がいようと、自分のペース、自分のテンポは譲らない、崩さない。
だから私は安心して、カメラを構えていられる。
2011年7月25日月曜日
幻霧景Ⅰ-06
私はこの写真が好きだ。
これを撮った時、こんなふうに出来上がるとは思っていなかった。というよりも、私は撮影中というのは無我夢中ゆえ、何の計算もできていないから、仕上がりのことなんて考えていられない。考えていない。
現像して、浮かび上がって来た像を見た時、うわぁと思った。
樹々が彼女らを守ってる。
そんなふうに見えた。
大きな大きな樹という家の中にひっそりと二人が佇んでいる。そんなふうに。
本当は。誰もがこの星の上、そうやって守られているんだと思う。いや、守られている筈なんだと思う。
それがいろんなものが奪われ、削がれ、そうしていくうちに、まるで自分はおっぽり出されているような、放り出されて棄てられてしまっているかのような、そんなふうに感じずにはいられなくなってしまうんだと思う。
人は人によって、そうやって、いろいろなものを奪われ、削がれてゆくんだな、と。いや、殺がれてゆくのだな、と。
そんなことを、思う。
これを撮った時、こんなふうに出来上がるとは思っていなかった。というよりも、私は撮影中というのは無我夢中ゆえ、何の計算もできていないから、仕上がりのことなんて考えていられない。考えていない。
現像して、浮かび上がって来た像を見た時、うわぁと思った。
樹々が彼女らを守ってる。
そんなふうに見えた。
大きな大きな樹という家の中にひっそりと二人が佇んでいる。そんなふうに。
本当は。誰もがこの星の上、そうやって守られているんだと思う。いや、守られている筈なんだと思う。
それがいろんなものが奪われ、削がれ、そうしていくうちに、まるで自分はおっぽり出されているような、放り出されて棄てられてしまっているかのような、そんなふうに感じずにはいられなくなってしまうんだと思う。
人は人によって、そうやって、いろいろなものを奪われ、削がれてゆくんだな、と。いや、殺がれてゆくのだな、と。
そんなことを、思う。
2011年7月21日木曜日
幻霧景Ⅰ-05
こちらはもう少しだけ若い桜の樹。真っ直ぐな幹がそれを物語っている。その樹を挟んで、それぞれの位置に座りこむ二人。
あとで知ったが、この時二人は何を話していたのか。それは、撮影が終わったら一緒にアイス食べようね、何のアイスがいい?と話していたという。後になってそれを知り、思わず噴き出してしまったことを覚えている。
一方私はといえば。地べたを這いずり回っていた。
どの角度から撮ったら二人が美しく見えるだろう。そんなことを思いながら、地べたを這いずり回っていた。撮影の際泥だらけになるのは私の場合いつものこと。
静かな朝、かかっていた靄はいつのまにか薄らぎ、鳥の囀りが遠く近く響いていた。
あとで知ったが、この時二人は何を話していたのか。それは、撮影が終わったら一緒にアイス食べようね、何のアイスがいい?と話していたという。後になってそれを知り、思わず噴き出してしまったことを覚えている。
一方私はといえば。地べたを這いずり回っていた。
どの角度から撮ったら二人が美しく見えるだろう。そんなことを思いながら、地べたを這いずり回っていた。撮影の際泥だらけになるのは私の場合いつものこと。
静かな朝、かかっていた靄はいつのまにか薄らぎ、鳥の囀りが遠く近く響いていた。
2011年7月18日月曜日
幻霧景Ⅰ-04
突然、少女が再び駆け出した。今度は自ら駆け出した。
長い髪が彼女の足を一歩進めるたびにひょんひょんと跳ねた。微かな朝陽を受けてきらきら輝く黒髪には、天使の輪が産まれており。
じっと見つめていると、余計なものはすべて削ぎ落とされ、
私の目の中にはただただ、少女の掛けてゆく姿のみが写しだされる。
まるでスローモーションのようになって、少女は一歩また一歩、走り去ってゆく。
朝陽がまた一段高いところに上ってゆく。
ふと思う。道は人が作るのだ、と。私の前に道はなく、だから私自身が道を作ってゆくのだ、と。走ってやがて谷間に点のようになって消えてゆく少女の姿は、切ないほど純白だった。
2011年7月14日木曜日
幻霧景Ⅰ-03
それは桜の樹、もういつ終わりが来てもおかしくないほどの老木。
私がこの場所を最初に訪れた時から、勿論ここにずっと在り続けている。
大きく枝を横に広げ、それはまるで子供らを抱き抱えるかのような格好で。
すると少女が何も言わずそこに登り座りこんだ。
それを見ていた彼女が、幹の一番根元にすっと腰を下ろす。
まだ夜が明けきらない中、私達はそうして少しずつ少しずつ動き始めていた。
もう桜の花ががすっかり散り落ちて、地面を覆う芝は緑に輝いている季節。
しっとりと露に濡れた芝が、私達の足をすっぽりと包み濡らしてゆく。
私がこの場所を最初に訪れた時から、勿論ここにずっと在り続けている。
大きく枝を横に広げ、それはまるで子供らを抱き抱えるかのような格好で。
すると少女が何も言わずそこに登り座りこんだ。
それを見ていた彼女が、幹の一番根元にすっと腰を下ろす。
まだ夜が明けきらない中、私達はそうして少しずつ少しずつ動き始めていた。
もう桜の花ががすっかり散り落ちて、地面を覆う芝は緑に輝いている季節。
しっとりと露に濡れた芝が、私達の足をすっぽりと包み濡らしてゆく。
2011年7月11日月曜日
幻霧景Ⅰ-02
まだ公園の街灯は点いたままだった。
うっすらと霧が出ており。まだ私達の他に誰ひとり公園にはいなかった。
私達は別に、どんなふうに撮ろうとか、どうやって撮ろうとか、そんな話は事前に一切しない。彼女たちが自由に動き回るのが基本で、それに対して私が時々、もうちょっとこっち来て、とかもうちょっとだけ後ろに下がってみて、と声を掛けるのみ。
それがいつもの私達のスタイル。
そんな私と彼女との間で、その少女は何を感じていただろう。
何を質問してくるわけでもなく、すっと立って、私達の間を往ったり来たりしながら間合いを計っている。
まだ五歳の彼女の動きは絶妙で。私はカメラを構えながら、思わず、よしっと声を掛けてしまう。
うっすらと霧が出ており。まだ私達の他に誰ひとり公園にはいなかった。
私達は別に、どんなふうに撮ろうとか、どうやって撮ろうとか、そんな話は事前に一切しない。彼女たちが自由に動き回るのが基本で、それに対して私が時々、もうちょっとこっち来て、とかもうちょっとだけ後ろに下がってみて、と声を掛けるのみ。
それがいつもの私達のスタイル。
そんな私と彼女との間で、その少女は何を感じていただろう。
何を質問してくるわけでもなく、すっと立って、私達の間を往ったり来たりしながら間合いを計っている。
まだ五歳の彼女の動きは絶妙で。私はカメラを構えながら、思わず、よしっと声を掛けてしまう。
2011年7月8日金曜日
幻霧景Ⅰ-01
それは夜明けとともに始まった。まだ薄暗い森林公園。
うっすらと霧のかかった朝の光景。どの樹もどの樹も、しんと鎮まり返っている。
その静けさがたまらなく心地よい。
私のフィルムの感度で、ちょうどこれが始まりの時刻。
広がる草の原を見つめていた私は、その子に声を掛ける。
ねぇ、あそこまで走ってみようか。
その子はコクリと頷き、私の掛け声とともにダッシュした。
小さい子にはまだその距離は辛かったろうに、それでもその子は必死に丘を駆け上がっていった。
一方私は、シャッターを切り続けている。
そして私がカメラを下ろすと、それまで私の隣にいた彼女がその子を迎えに、自然歩きだす。
撮影の、始まりだった。
うっすらと霧のかかった朝の光景。どの樹もどの樹も、しんと鎮まり返っている。
その静けさがたまらなく心地よい。
私のフィルムの感度で、ちょうどこれが始まりの時刻。
広がる草の原を見つめていた私は、その子に声を掛ける。
ねぇ、あそこまで走ってみようか。
その子はコクリと頷き、私の掛け声とともにダッシュした。
小さい子にはまだその距離は辛かったろうに、それでもその子は必死に丘を駆け上がっていった。
一方私は、シャッターを切り続けている。
そして私がカメラを下ろすと、それまで私の隣にいた彼女がその子を迎えに、自然歩きだす。
撮影の、始まりだった。
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