2010年9月28日火曜日

小さい頃、自分にとって特別な道があった。小学校と自宅とを結ぶ、山道だ。通学路からは、外れている。
外れているが、私はそこをよく通った。ひとりきりの帰り道、必ずその道を使った。
山道はでこぼこで、小学一年生の私には、結構しんどかった。それでもその道を使うのには訳があった。
幼い頃、まだ昆虫たちが苦手でもなんでもなく、むしろ自分にとって親しい友達と思っていた私は、山道で出会う様々な昆虫たちに、いつも見惚れた。家に帰って図鑑で調べ、こっそり弟に教えたりもした。
また、その山道には、アケビや葡萄、栗の実がたくさん在った。それをよいしょっと木に登って取って食べる。これほどおいしいものは、他になかった。

引越しが決まって、その道と別れることになった。切なくて、一番高いところに座って泣いた。じきにこの辺りには大きな幹線道路が作られることも決まっており、ということは、この山道は、なくなってしまうことになる。
もう二度と会えない。そう思ったら、切なくてたまらなかった。

今、私が大人になり、娘も大きくなり。町はどんどん変化していっている。私があの頃得た秘密の小道なんて、何処にも見当たらない町の様子。娘にとって、大きくなって振り返ったとき、秘密の小道なんて呼べる場所は、きっともう、ないんだろう。

そう思っていたら、娘は実家の近くの山道を、見つけてきた。朝早く起きてそこへ行くと、栗鼠や狸に会える。栗も落ちてる。葡萄もある。あけびはさすがにないらしいが、小さな小川も流れてるらしい。
私は敢えて、その道に行かない。彼女の秘密の小道にしておきたいから。彼女が大きくなって振り返ったとき、あぁ、あんな道があったなぁと、そう思える場所にしておきたいから。