2010年9月27日月曜日

立つ

彼は丘の上にひとり立ち、じっと世界を見つめていた。
荷物は荷物かもしれない。それは永遠に変わらないものかもしれない。でも。
その荷物を重いとするか、それとも共にあるものとするか、それは、自分次第なのだ、と。そのことを、彼は今、思っていた。

あの時、何が起ころうとしているのか、全く分からなかった。
分からないまま、言われるまま、されるがまま、だった。
大人の言うことをききなさい。いい子にしていなさい。そういう父や母たちの言葉が、頭の中をぐるぐる回っていた。でも。
その結果はどうだったか。
彼は、自分の心がぐにゃり、折れるのを感じた。

それでも、普通になろう、普通でいよう、努力してきた。自分は人と違ってしまっているという思いがなおさら、普通でいよう、普通になろうと努力させた。それでも。
拭えなかった。
何も、拭えないどころか、ますます泥沼にはまっていくようだった。

でも。
もう、普通になろうとか、普通でいようとか、そんなことを思わなくてもいいんだ。
自分は自分であればいいんだ。
世界はただそれだけで十分に、自分を迎えてくれるものなのだ。
彼は、そのことに、気づいた。

今、彼はひとりで丘の上に立つ。
けれどそれは、独りではない。彼の周りには世界が渦巻いており、世界が彼を取り囲んでおり、彼を抱きしめている。
彼は決してもう、独りではない。