2010年9月15日水曜日

何気ない、

昔、祖母がまだ生きていた頃。
祖母は洋服も着ることは着たが、たいていは着物だった。着物に割烹着、それが私の記憶に残る祖母の一番多い姿だ。

そんな祖母の家には、着物がたくさん置いてあり。緑、紅、紫、菫色、様々な色の着物があった。中でも祖母には、紫色の着物がよく似合った。

もしあの頃、祖母が生きていた頃、私がカメラというものを持っていたなら。私は祖母の踊る姿や、何気ない台所での立ち姿を、何枚も何枚も写真におさめていたに違いない。それができなかったことが、正直言うと、心残りだ。

今、私の目の前でMちゃんが、私の長襦袢を羽織って座っている。Mちゃんの上半身よりずっと丈の長い花を両腕に抱え、座っている。
ふと、そのMちゃんの、膝の上に落ちた花びらが目に入った。
いろいろ動いているうちに、たまたまそこに散り落ちたのだろう花びら。でも。
それが、私の目には、強く強く、突き刺さってきた。

どうということはない、何気ない、ただの一枚の写真。
でもそこには、花びらの軌跡が確かに在って。

この撮影が終われば、片付けられてしまうだろう花びらの、それでも、ここに在るよ、ここに在るよという声が耳の内奥に木霊してきそうで。
何気ない、どうということはない写真の中にこそ、もしかしたら生の気配は色濃く残るのかもしれない。