砂の丘に見つけた木片。
まるで、今の自分のようだと思った。二本の木片にひっかかって、辛うじて立っている枝。二本の木片の、どちらかでももし傾いたら、自分は堕ちる。
そう、思った。
海は轟々と唸り声を上げて砂浜を嬲っていた。雲は風に飛び、一瞬も同じ形では在り得なかった。彼の周りで世界は、動き続けていた。
まるで自分ひとり、取り残されている。
一瞬、そう思えた。
思った瞬間、いや、違う、とも思った。自分をここから風が押し出そうとしている。一歩を踏み出せと、風が背中を押している。海は自分を呼び寄せ、抱きしめてやろうと両手を差し出しているようで。
あっと、彼が声を上げたのはその時だった。
そうか、世界を拒絶していたのは自分で、世界が自分を拒絶していたわけじゃないのだ、と。そのことに、気づいた。
轟々と唸る海と共に、彼は泣いた。
荒れ狂う空と風と共に、彼は泣いた。
もう、いいんだ、あのことを過去にして、いいんだ。
世界はいつだって自分に向かって開けていて、そう、自分はひとりきりなんかじゃぁなかったんだ、と。
彼は、泣いた。
海は風は雲は砂は。
そんな彼を、ただ、見守っていた。
木片は揺れながらも、しっかと足を踏ん張り、砂地の上に立っていた。