2010年9月13日月曜日

唸る空の下

その日、天気はくるくると変わり。いつのまにか空一面にうねるような雲が広がっていた。いつ雨が降り出してもおかしくはない、そんな空模様だった。

砂丘には、強い強い風が吹き荒れて。私たちは真っ直ぐに立っていることさえ難しかった。
吹き付ける風には細かい砂が混じっており、その砂が私たちをひっぱたくようにして過ぎていった。

友人は黒いワンピースを着ており。その友人がゆっくり、向こう側から歩いてきたとき。あぁ、この光景、何処かで見たことが在る、そんな錯覚を覚えた。
真っ黒な空の下、それでも歩き続ける誰か。決して歩みを止めることなく、歩き続ける誰かの姿。そんな光景を、夢の中、何度か見たことが在る。
今それが、目の前に在った。

風が唸り、彼女を嬲ってゆく。
砂が悲鳴を上げ、彼女に飛び掛ってゆく。
それでも彼女は歩みを止めることはなく。
一歩、また一歩、踏み出してゆく。

あぁ、これが、生きるというひとつの形だよな、と私はファインダーを覗きながら思った。雨風にじっと耐え、諦めることなく歩き続ける姿。それは、まさに生きるということそのものに見えた。
自分を守ってくれるものなど何処にもなくとも、それでも歩き続ける。それが人の性なのかもしれない、と。そんなことを思いながら、シャッターを切った。

今もあの場所で、砂は唸っているだろうか。雲は呻いているだろうか。私たちを諌めるように、風は泣き叫んでいるのだろうか。