その人は少女のような目をしていた。きょときょとと動く小さな目。小さくくっついた口。薄い唇。背が高く、でもそれはすらりとした高さではなく、遠慮がちな佇まいをしていた。
そんな彼女は、人の群れに入っても、何処か浮かんでいた。ほんのりと浮かんでいた。少し俯きながら、でも彼女は、そこに混ざりきらない何かを、持っていた。
モデルになっていただけませんか。
断られることを覚悟で頼んでみた。すると彼女は、はいと頷いてくれた。そうしてばたばたと日程が決まった。
本当なら、森の中で撮るべきだったのかもしれない。彼女の佇まいはそう言っていた。でも敢えて私は海辺を選んだ。そして出掛ける日、私は大判のスカーフと、大きな花を二輪、持って出た。
伏目がちに話す彼女は、十近く私より年上なのだと後で知った。私、ちょっと浮いてるんだよね、と彼女自らそう言った。何となく落ち着かないんだよね、と。
でもそれは、決して、嫌な浮き方ではなかった。ぽっとそこに、彼女が在る、といった具合で。決して前に自分が自分がと出てこようとはしない、彼女の控えめさが、際立っていた。
時にスカーフを風になびかせながら、彼女は走り、踊った。砂には次々彼女の足跡がついた。私はそれをただ追っていった。
そんな彼女の、アップを撮りたいと思ったとき、あぁただ正面から彼女を映したのでは済まないなと思った。それは彼女ではない、と思った。そうして気づいたら、私は彼女の顔を半分、切り取っていた。
そしてさらに、花たちを多重露光で撮影した。
これは現実には在るものではない。私が作った、私の、彼女の印象だ。
私はもう、今の彼女を知らない。でも、あの時私の目の前にいた彼女は、こんな姿をしていた。人ごみの中に塗れていたならば、彼女はまるで菫の花のようだ。でも。彼女を独り大地に佇ませたなら。
これが彼女だと、私は思う。