2014年7月14日月曜日
夏
あの夏。
君は小学校に入って間もない頃、
まだまだ私にくっついて歩いていた頃。
君と撮りに行った。
その日は抜けるような青空が広がっていて、陽射しは今日みたいに、きらきらを通り越してぎらぎらしていた。
それでも、風は心地よく、流れていたっけ。
ママは何になりたかったの?
君がそう訊くから、
ママは本づくりのひとになりたかったの。
と正直に応えた。
どうしてならなかったの、
と重ねて訊くから
一度なったんだけど、しばらくして辞めたの、
と正直に応えた。
君は、全然納得できない顔で、その先を待っていたようだったけれど、
私はまだ、君に話の続きができなかった。
本当は。
ようやっとの思いで親の呪縛から逃れて、本づくりの仕事を始めたのだけれど、そこで強姦という被害に遭って、病気になって辞めざるをえなくなったのよ、
と、言いたかった。
でもまだ、早い気がしたから、言えなかった。
いつか、いつか、と思いながら日は過ぎて。
或る時、ママの本読もうかな、と突然小学校高学年になった君が言うから、
いいよ、と返事した。
君は、貪るようにその夜のうちに本を読み終えたんだったね。
そして、
何も言わなかった。
ただ、翌朝、いつものように、仏頂面で
おはよう、とぼそっと言っただけだった。
でも、
それで、十分な気がした。
読んだからって、知ったからって、何が変わるよ、と
君は言っているようで、
だから、私はひどく、安心したんだ。後になって、ただひとこと、君は
知ってたよ、と言ったね。ぼそっと、知ってたよ、って。
それでもう、十分だったんだ。
だから、
私たちはそのことについて改めて、向き合って話をしたことはなく。
でもだから、改めて言うよ。
ありがとう、娘。
君のその、変わらない態度が、
何よりの、私に力を与えてくれている。
今年もまた、夏が来たよ。