その場所には、背の高い樹が集まっていた。滑らかな幹をもつものもあれば、ささくれ立った樹皮をもつものもあった。めいめいが思うように、枝葉を伸ばしていた。
なぜその樹に、特に目が止まったんだろう。
多分もう老木の類に入るだろう。がさがさにささくれた樹皮をもつ樹。背が高く、他のものをまるで寄せ付けたくないといっているかのような雰囲気が漂っている。
これだけ在る樹の中で、この樹は何故か、孤立しているかのように見えた。
ねぇ、小さい頃って、やたらめったら木登りとかしなかった?
したした、私、樹と樹を渡って歩くのが好きだった。
よく落ちなかったね。
そりゃおてんば娘だったからね、私。枝から枝へ渡り歩くって、気持ちいいんだよぉ。
私たちは樹をじっと見上げながら、そんなことを話していた。
ね、聴こえるかな?
ん、何が?
樹の呼吸の音。
どうだろう。
私たちはぴたっと、耳を幹にくっつけてみた。がさがさの樹皮がやわらかな耳に刺さって痛かったけれど、それでも私たちは、じっと幹に耳をくっつけてみた。
どう? 聴こえる?
…分からない。耳、悪くなったのかな?
いや、私も聴こえない。でも。
でも?
生きてるね。感じるよ、手のひらから、樹の鼓動。
私たちはしばらくそうして、樹に体を寄せていた。錯覚かもしれない、ただの気のせいかもしれない、でも、手のひらからじわじわと、樹の生きているという証拠が、流れ込んでくるかのような、そんな気がしていた。
まだまだ生きるよ、この樹。
そうだね、私たちより長生きしてほしい。
大丈夫、きっと。
うん、大丈夫だ。きっと。
その時雀が数羽、樹の高みに止まった。あぁそうか、樹は孤独ではないんだ。いつだってこうして、鳥や虫たちが集う場所になっているんだ。
私たちは、樹に手を振り、その場を後にした。