2010年2月18日木曜日

星の上に座る少女

この辺りには、細くて短い階段が結構ある。散歩していると、いきなり道が途中から階段になったりする。それは本当にいきなり現れるから、私たちはどきどきしながらそこを降りる。
ママ、これはね、秘密の階段なんだよ。
秘密の?
うん、これはね、あの世につながっているんだよ。
すごいこと云うね、ここを降りたらあの世なの?
そう。
云いながら彼女は、たったかたったか降りてゆく。そして、
ここがね、あの世とこの世の境目なんだよ!
大きな声でそう、云った。
それは階段の途中にあった。
あの世とこの世の境目が、そんなふうにありありと目に見えるものだったとは。私は考えてもみなかったから、ちょっと驚いた。
ねぇ、どうしてここが境目なの?
ほら、見てごらんよ、ここに印がある。
そう云って娘が指差す先に、小さな小さな、本当に小さな星型の染み。
このお星さまを目印に、歩いて来るんだよ。
そうして、その境目の、星の上に座る彼女。
座ると何が見える? 私が尋ねる。
何も見えないよ。
三途の川っていうのがあるはずなんだけど。
何にもないよ。夜のお空があるだけだよ。
私はまだ、あの世とこの世の境目に座ったこともなければ、跨いだこともない。彼女の隣に座ってはみたが、私には何も見ることができなかった。きっと、あの時のあの彼女にしか見ることは叶わなかったんだろう。
座ったまま、じっと遠くを見つめる彼女を、その時私は撮った。

あれから何度か同じ場所を訪れるのだが。
あの日彼女が見つけたあの星印には二度と、出会っていない。