2011年8月5日金曜日

幻霧景Ⅰ-09

この頃私はまだ、自分の腕を切り刻んでしか今日を越えることができない位置にいた。
そんな私にとって、「暗室」が味方だった。
自傷の発作の波が襲ってくる、その予感を感じたらだから私は、速攻で風呂場に飛び込み、暗室を作り、プリント作業を始めた。
その作業だけが、私を、自分の腕を切り刻むことなしに夜を越えさせる、唯一の術、だった。
だからかもしれない。
時間を見つけては、彼女らをフィルムに刻み込んでいた。彼女らの季節季節に立ち会い、フィルムにその姿を刻み込み、プリントしていた。

そんな私の隠した姿を責めることもなく、彼女らはいつも、付き合ってくれた。

夜明けからだいぶ時が経った。だんだんと肩に背中に、東から真っ直ぐに伸びて来る陽ざしを感じるようになっていた。それは一刻一刻強くなってゆく。
そんな光溢れる中、私達は佇み、歩き、歩いてはまた佇んでを繰り返していた。