2010年10月19日火曜日

隅っこの気配

そこは、気配の溢れる場所だった。
Mちゃんと延々と電車に乗り、バスに乗り、ようやく辿り着いたその場所。もはや廃墟と化しているその場所。それなのに、すうっと風が流れ、心地よく呼吸のできる場所。

なんだか精霊が住んでいそうな場所だね。
うん。
廃墟なのに何もかもが透き通ってる。
まだまだこの場所が、静かに息づいてるって証拠だね。
うん。

どちらともなくその場所の中を徘徊し、目が合えばシャッターを切り、そうして時間を過ごした。その間も、風はすぅっすぅっと流れ、決して止むことはなかった。
ケーブルカーを動かすための大きな車輪、小さな車輪が入り組んで佇んでいる。そして、もう誰のことも運ぶことのなくなった車両が一両、止まっている。
蝶がひらひらと、その中を漂っている。

崩れ始めた壁も、まるで息づいているかのように透き通っていた。その隅っこ。誰かが今も佇んでいるかのような気配がありありと。

ねぇ、誰かいるよね、あそこ。
うん、いるみたい。
でも、嫌な感じじゃないね。
うん、涼やかな感じ。

私たちは、二人でそおっとその隅っこに近づいた。ふわり、風の揺れる気配がして。でもそれは一瞬で消えた。

やっぱり、誰かいたのかな。
うん、何かいたみたい。
でも、別に私たちのこと、拒絶してないね。
かくれんぼしてるみたいだね。
うん。

その時、さぁっと陽光が窓ガラスからその隅っこに注ぎ込み。
あたりはふわぁっと明るくなった。

隅っこ。それはただの隅っこかもしれない。でも、私たちにはその時、風の子らの遊ぶ、小さな小さな空間のように思えた。