2010年10月8日金曜日

空よ

季節は冬。すかーんと抜けるような青空で。その青空に、表情豊かな雲が、もこもこと漂っていた。風も強い日で。だから雲はぐいぐい流れ、表情を変えていくのだった。
まだこの埋立地が、空き地ばかりだった頃。

空を飛べたら。
誰もが一度は思ったことがあるんじゃなかろうか。幼い頃、空を飛びたいと切に願ったことは、あなたにはなかっただろうか。
私にはあった。
鳥のように空を飛びたい、あの高みから世界を眺めてみたい、そうしたら私はもっと自由になれるんじゃないか。本気でそう思った。
でも私には、羽の代わりに、二本の足が、与えられていた。

彼女が言った。うわぁ、すごい空だ。
本当だね、すごい空だね。
あそこに溶けてしまえたら、気持ちいいだろうなぁ。
あぁ、そうかも。

私たちはじっと、空を見つめた。
真っ青な空が、雲と戯れていた。
それは子供の喧嘩みたいに他愛なく、無邪気で、でも、だからこそ激しい拮抗だった。
そんな空を、私たちはただじっと、見つめていた。

あの空に抱かれたら、何にもなかった頃に戻れるのかもしれない、なんて思ったりするんですよ。彼女が呟く。
そっか。私はただそれだけ返事をして、黙り込む。
それが無理なことは、私たち二人とも知っていた。
それでも、そんなことを思い描いてしまう、そうせずにはいられない、私たちの、背負った性。

そんな私たちにお構いなしに、空はそこに在った。雲はそこに在った。
そして彼らを見つめる私たちを、彼らもまた、見つめているのだった。