森を歩いていたときだった。にわか雨に降られた。私は手を繋いでいた娘と共に、茂みの中に入り、何とか雨をしのいだ。
その間に足元を多くの虫たちが通り過ぎた。荷物を持っているものもいれば、私たちのように慌ててどこかに身を隠そうとしているものもいて。なんだかその様はとても、かわいらしかった。
ママ、このまま閉じ込められたらどうする? どうしようか、それもまた面白いかもしれないね。面白くなんてないよ、早くおうちに帰りたい。娘は情けなさそうな顔をして、空を見上げる。その顔に、ぽつぽつと大粒の雨が降り落ちる。
私はといえば。楽しくて仕方ない気分だった。街中では到底味わえない、雨と共に在ることを赦されるその時間が、たまらなくいとしかった。土砂降りになるのも、それはそれでいいかもしれないなんて、気楽なことを考えていた。
そのときだった。まさにさぁっと音がするかのように、辺りが開けていった。
それまで暗い雲に覆われていた空が、ぱっくり割れたのだ。
私たちはその様に、呆気にとられた。ぽかんと口を開けて、空を見上げていた。
そのときだった。
ママ、見て! 娘が指差した方向を見ると。そこには燦々と降り注ぐ光。
娘の足は自然、そちらの方向に向いており。私は娘の背中を見つめながら、同時に光も見つめていた。
ぱっくりと開いた空から、降り注ぐ光はなんとたおやかで。柔らかいのだろう。
辺りの暗さは一変し。葉にくっついた雨粒という雨粒が、ざわめきだした。くっきりと光を浴びて、さわさわ、ざわざわと動き出した。
あぁ、世界の割れ目だ。そう思った。鼠色の雲の裂け目の向こうには青空が広がっており。その青空に共鳴するかのように、風が辺りを渡り、葉が音を奏でた。すべてが洗い立てで。まっさらだった。
あの時の光を私はなんと名づけたらいいのだろう。分からない。でもそれは本当にたおやかで。しなやかで。やわらかく。すべてを包んでも有り余るほどで。
私はシャッターを切った後、そっとその光の方向に手を伸ばした。光は笑いながら、そこに、在った。