2014年6月22日日曜日

「冬咲花」より 01


「冬咲花」は、「声を聴かせて」にも掲載したシリーズだ。週刊金曜日でご存知の方もいるかもしれない。
ここでは、「声を聴かせて」では触れなかったことなどについて、ちらほら、触れてみようと思う。

あの日。
nikoは泣いていた。会った最初から不安定だった。
私は敢えて、泣いている理由を尋ねなかった。
私にできることは、理由を問いただすことより、ただ一緒にいること、或いは彼女を笑わせることだと思ったから。

私の部屋で泣くだけ泣いた彼女に、私はふと言った。
写真、撮ろうか。

蹲ったままぬいぐるみを抱く彼女を、私はそのまま撮った。
言葉は、もう要らないと思った。
彼女と私がここにいて、この時間を共有していることが、大事だと思った。

そうして部屋で十数回シャッターを切った後、私は彼女を外へ誘った。
最初嫌がっていた彼女だった。でも、
私は、今出ないといつまでたっても外に出れなくなるよ、と強引に誘った。



当時の私の部屋のすぐ前は、公園だった。
その日日差しは燦々と降り注いでいて、春の始まりを予感させるような日和だった。
無理矢理私に連れ出されたnikoだったのに、鉄棒を見つけた途端表情が変わった。
「鉄棒、昔よく遊びました。好きだったんですよねぇ。いつの間にか忘れてた」
そう言って鉄棒にひょいっと飛び乗った彼女は、いつのまにか笑顔になっていた。
鉄棒、好きだったぁ、と繰り返し言いながら、くるくると棒を回っていた。

彼女を見ていると、私は自ずと、自分の過去を思い出さずにはいられなかった。
被害に遭ってしばらくして、閉じこもることしかできなくなっていた頃の自分を。

nikoは被害に遭ってその頃まだ間もなかった。だからこそ、
私はそんなnikoの姿に過去の自分を重ね合わせたんだろうと思う。

その日、彼女はとてもいい顔をして私に手を振って帰って行った。
でもまだまだ、彼女は、細い細い綱の上を、綱渡りしてる、そんな位置にいた。