街中に住んでいると、苔というものには殆ど出遭わない。よほど年季の入った公園の、水場などでない限り、出遭うことは、ない。
でもその場所は鬱蒼とした森の中の別荘地で。といっても、小さな山小屋がぽつりぽつり建っている程度の場所で。
道もだから、数年前まで砂利道だった。泥道だった。少し放っておけば、草がぼうぼう生えてくるような、道ばかりだった。
そんな場所では、コンクリートまでが苔むしてゆく。
誰が為したわけでもない。時間がそうさせた。長い時間が、そうさせた。
苔はびっしりとコンクリのブロックを覆い、もはや周囲の土と同等の色合いをしていた。ちょっと見には、見分けがつかないほどで。
年月が、そこに在った。決して人の世界では営み得ない速度での、長い年月が、そこに横たわっていた。
もう誰の目にも留まることはないような、そんな代物だった。
穏やかに穏やかに、侵食されていったコンクリ。人の手では為しえないものが、そこに、在った。