2010年6月10日木曜日

水鏡

それは桜の花の季節だった。山奥の公園へ、二人で出掛けた。彼女も私も、もうだいぶ薄着だったことを覚えている。
行き止まりの道を何度か行き来した。そうして辿り着いた公園には、大きな大きな池があり。そのほとりでは家族連れが水遊びをしていた。

彼女の瞳は大きい。とてもくっきりと、大きな目をしている。見つめるとごくんと飲み込まれそうなほど、印象的な目だ。でも、体はとても小さく、私よりひとまわりは小柄なのだった。
なで肩で、細い手足。でも何だろう、決してか弱そうな雰囲気ではなく。凛とした強さをいつも秘めていた。

だからかもしれない。私はとても、彼女に惹かれていた。彼女の、常に湧き出てくるエネルギーに惹かれていた。でもそれは決して、無条件に湧き出てくるものではない。彼女が切磋琢磨して、彼女が押し出してくる力。だからこそ、それは輝いていて。
だから私は、彼女に惹かれていた。

空は高く高く澄んで、風が小さな雲の切れ端を流していた。
鳥の囀る声が何処からともなく響いてくる、そんな場所だった。

そしてそれは、公園の端の方にあった。ぽつねんとあった。いつから溜まっていたのか分からないほど、苔むした水が、そこには溜まっており。
空から降り注ぐ陽光を、きらきらと反射させていた。

小柄な彼女にのぼってもらい、一枚撮った。
水鏡はまるで私たちを吸い込みそうなほど深く深く深く、そこに在り。
ふと思った。私たちは何て小さいのだろう、と。
この水溜りの深遠に比べて、私たちは何て小さいのだろう。
だからこそ足掻くのかもしれない。私たちは。

散り落ちる花びらが、吹雪のように舞っていた。