
その景色に魅せられ、以来私は、時折この場所を訪れる。
彼女と砂丘を訪れることになって、何となしに椅子が欲しいと思った。そう、折り畳める、小さなサイズの椅子。
オークションで探したら、偶然にも、明治時代に建てられた家屋からの掘り出し物というちょっと傾いだ椅子を手頃な価格で見つけた。一目惚れして、即決した。
その椅子を担いで、撮影場所の砂丘に向かった。
その日、砂丘には、砂紋よりも足跡の方が多くて。でもその夥しい足跡に私はちょっと圧倒された。まるで軍隊がここを通り過ぎたかのような有様だった。
はっきりしない天気だった。雨が降りそうな気配はするものの、時折雲が途切れ、流れてゆく。それは本当にぐいぐいと流れてゆく。それほど風が強く吹き付けていた。
最初、椅子を立てて、彼女にはその横にかがみ込んでもらって一枚を撮った。
でも、何だろう、違和感が残る。
そうして、ふと思いついて、椅子を倒してみた。
雲はうねっていた。風は唸っていた。沈黙しているのは砂丘と、彼女と椅子と、私だけだった。
そして砂の丘の向こうでは、海が轟々と泣いていた。