2010年1月27日水曜日

それは或る晴れた日の、


それは或る晴れた日の、まだ娘が小学校に入る前の春。
恒例の友人たちとの花見。毎年一回この季節にこの場所に集まることになっている。手作りの弁当を持ち合い、わいわいがやがや、酒を飲む大人もいれば、野っ原を走り回る子供たちもいる。めいめいに好きなように時間を過ごす。

そんな中、娘は黙々と散り落ちた花びらを拾い集めていた。他の子供たちが飽きて、他の遊びを始めたにも関わらず、彼女はずっとそうして花びらを集めている。
そうしてすっくと立った。

ママ、こんなに死んじゃった。
涙目の彼女が差し出した両の手の中には、いっぱいの花びら。ちぎれたものもあれば踏みつけられたものもあり。それでもそれはやはり桜の花びらで。
ママ、こんなに死んじゃった。
ううん、死んでないよ。だってあなたがちゃんと拾ってあげたでしょう? これ、押し花にしよう。
ほんと?
うん、ほんと。
涙はすっと引っ込んで、彼女は満面の笑み。そうしてポケットに花びらを詰め込む。あれもこれも、あっちもこっちも。多分本当は、全員を持って帰りたいのだろう。私はそんな彼女をじっと見つめている。

この写真は、ちょうどその、涙をいっぱい溜めて私に手を差し出した、その時の一枚。
結局、押し花の栞は、今はもう残っていない。作ったものの、あっという間に本の間でくたくたになり、消えていった。彼女ももう多分、あんなことがあったことなど覚えていない。でも。
私は覚えている。鮮明に覚えている。ママ、死んじゃった、と差し出した手の中の花びらを。その時の君の瞳を。鮮明に、覚えて、いる。