2014年8月21日木曜日

地滑りの音


彼女がまだこの町にいた頃、彼女はがりがりに痩せていた。
痩せていたのに、まださらに痩せたいと繰り返す。
何故?と問うと、
彼が痩せてるひとが好きなの、だから私、もっと痩せたいの
と、切なげに言うのだった。

被害に遭う前、彼と彼女は結婚の約束をしていた。そんな最中、彼がいる傍で被害に遭った。
彼は自分を責め、彼女は彼女で自分を責めた。
彼も彼女も、どん詰まりのところで、何とかしようと必死に、結婚にしがみついた。
結婚したものの、
ふたりとも、具合がよくなるわけもなく。
徐々に徐々に、ふたりは地滑りを起こすように、すべりおちるばかりで。

そんな彼女の主語は、いつだって彼だった。
彼女の考えることのすべては、彼に主軸があった。
そうして、自分で自分を痛めつけていることに
彼女はまったく、気づいていなかった。

だから、
彼が彼女を裏切ったときの彼女の狂いようは、半端がなかった。
必死に自分を抑えようと努力はしたけれど、無駄だった。
彼女はごろごろと、まさしくその音通りに、階段を転げ落ちていった。

それまでだいぶ安定していたPTSDの症状が、
あっという間に悪くなっていった。
彼女がリストカットした、オーバードーズした、という知らせが
しょっちゅう私の電話を鳴らした。
自傷行為によって見知らぬ病院に担ぎ込まれても、
彼女はそこのスタッフに自分の具合の悪さを説明できず、結局適当に放り出される始末。

どこまで落ちたら底が見えるんだろう。
どこまで落ちたら、彼女は止まれるんだろう。

私は心の中、そう思っていた。
このままだと田舎の親が出てくる始末になるよ、そうしたらあなたここにいられなくなるよ、
とそう言っても
わかってる、わかってるんだけど
と言うばかりの彼女。


とうとう、その日がやってきた。