2011年1月19日水曜日

森の中で

その森は一体いつからそこに在ったんだろう。私は知らない。
私が幼い頃にはすでにそこに在った。
人の手によって少しずつ削られてはいるけれど、それでもこの森はまだ生きている。
とくとくと脈打っている。

娘が駆けだした。
半ズボンの娘の足はまっすぐに、のびやかにしなって駆けてゆく。
彼女の手にはさっき彼女が拾った笹の葉が握られており。
それは森の緑と実によく溶け合っているのだった。

私にもきっと、こんな年頃があったろう。
私もきっと、母の眼の中でこんなふうに走ったことがあったろう。
私に記憶がないだけで、きっと。
そう、信じたい。

私は父母とうまくやってこれなかった。
だからこそ、この娘を産む時、悩みに悩んだ。
「虐待の連鎖」を。

それを乗り越えて。産んだ娘は、すくすくと私の隣で育ち、
いつの間にかこうやって、私の元を離れ駆けだしてゆく存在になっている。
娘は私の恐れなどに構うことなく、のびやかに健やかに育っている。

今森が開けてゆく。
明るい陽光が空から降り注ぐ。
娘の往く手には明るい陽光が漲り、私はそんな彼女の往く手を目を細めて見やる。
そうやって走っていくといい。駆けてゆくといい。
振り返った時私はいつでもここに在る。