2010年12月26日日曜日

ひとり

彼女はひとりで横浜までやってきた。
西の西の町、遠く離れた町から。或る日突然。
最初彼女を見た時、小さな小さなハリネズミのように見えた。全身の針を逆立てて、必死になって外界から身を守ろうとするハリネズミのように。

写真を撮ってください。私の写真を。
そう言って、私の前に現れた彼女は、ゆるぎない瞳を持っている女の子だった。
ここに来るまでに、どんな決意をしてきたのだろう。
私は彼女のその瞳を見つめながら、そのことを思っていた。

近親姦に悩まされ続けた時間。そこから這い出よう這い出ようとしても蟻地獄のようで、繰り返される時間。それでも彼女は、それらの時間を生き延びてきた。
生き延びてきた強さが、彼女には在った。

でもそれは、裏返せば、どれほどに孤独だったろう。
ひとりきりの闘いを、ずっとずっと続けてこなければならなかった彼女。
それを思うと、私は胸が引き裂かれる思いだった。

この写真を撮った場所はもう、今は全く違う風景に変わっている。
空き地だった場所にはビルが建ち、彼女と訪れた時の様子は片鱗も残っていない。
でも。
私の脳裏には、まざまざと今でも浮かぶ。
ひとりきり、闘い続ける彼女の姿が。凛と立つ、彼女の姿が。