2012年4月3日火曜日

立ち枯れる紫陽花の花の根元には

幼い頃から、私は紫陽花の花が好きだった。特に蒼い紫陽花が。幼い頃はよく、よそのお宅の蒼い紫陽花を見つけては、こっそり枝を折って持ち帰り、挿し木したものだった。
紫陽花は強いから、よほどのことがない限り根をつけてくれる。それも私が好きだった理由のひとつだったのかもしれない。

紫陽花の花の散るところをあなたは見たことがあるだろうか。
確かに数枚の花びらは、舞い散る。舞い散ることが、ある。しかし、あの花は殆どあの形のまま、残るのだ。枯れても残る。冬になっても下手をすればその形のまま残っている。
ドライフラワーのようになったその姿を見るたび思う。
彼らはああやって一年を通して、何を見つめ何を思っているのだろう。

或る冬の午後、散歩をした。その公園には桜の樹と蒼色の紫陽花とがこれでもかというほど植えられており。冬だというのに私の目の中には、彼らのこぼれるように咲き誇る姿がありありと浮かび上がった。
その時。目の前に現れた、立ち枯れた紫陽花の花。それは見事なほどに元のままの姿で。私はじっとそれを見つめた。彼も多分、私を見つめた。

見つめあい、しばし時を過ごした。

その日空はすかんと晴れ上がり。黒々とした桜の樹の枝が空に手を伸ばしていた。その枝々にはすでに夥しいほどの萌芽が。そして紫陽花の株の根元からは小さな小さな赤子の手のような新芽の塊が。

あぁ、春だ。私は空を見上げ、そう呟いた。