2011年6月16日木曜日

水鏡

私は水が好きだ。池も湖も海も川も。水の類は全部好きだ。泳げもしない頃から、水辺に魅せられていた。陽光に煌く水面も、夜闇に沈む水面も、どちらも。惹かれてしまう。
前世はもしかしたら、魚だったんじゃないかと思ったりも、する。

あの日、Nちゃんが隣にいた。性犯罪被害者となってしまったNちゃんは、まだ被害から間もなくて、毎日毎日が戦いだった。
あの日の朝も、起き上がろうとしては倒れ、痙攣を起こし、意識を失い。私はただ彼女の手を握って、彼女の意識が戻るのを待つだけだった。

悪夢に魘される夜。フラッシュバックに襲われる朝。記憶を失う昼。そうした毎日の繰り返しの中でも、彼女は必死に戦っていた。
あの日、震える足で私のカメラの前に立ち、舞い踊ったNちゃん。
数週間後、ここからはひとりで頑張ってみます、と、電話をくれた。
今きっと彼女は、この空の下、ひとり戦っているに違いない。

あの日、Nちゃんが隣にいた。
水鏡はしんと鎮まり返り、私たちと共に在った。