あれは風吹き荒ぶ冬の日だった。彼女は腰まであった髪を肩あたりまでばっさりと切り落として現れた。さっぱりしたでしょ?開口一番そう言って君は、さらりと笑った。
失恋なんかで髪を切るタイプの人じゃぁなかった。だから私は敢えて何も聴かなかった。彼女が話してくれるまで何も聴かない。それが私の礼儀だった。
しばらくして彼女が、ぽろり言った。
あんまりにもいろんなことがあり過ぎて。だからきれいさっぱりすべて切り捨てることにしたの。今までのことの殆どをゼロに戻して、そこからまた新しくやってくわ。
いったん引き上げられた生活のレベルを落とすのは、はっきり言って容易じゃない。今までのことをゼロに戻して、と彼女は言うが、言葉ほどそれは簡単じゃぁない。
しかし。
洋服の趣味も身に着けるものも、何もかもをがらりと様変わりさせてきた彼女の覚悟は、相当なものだった。これまで一心不乱に進んできた夢さえも、彼女は手放すと言う。
「私には、あの夢に足りるだけの覚悟が足りなかったの。だから一度御破算にするわ。それでもまたあの夢に自分が突き進むなら。今度こそ、だわよ、ね」
向き合った彼女は北風に煽られ。小さな身体は飛んで行ってしまいそうなほど轟々と風に嬲られ。
でも。
彼女はびくともしなかった。まるで彼女の今の覚悟のように。
あれから四年。
彼女は新たな道を歩いている。
夢と現実と両方をしっかと掴んで。
そんな彼女に私は今、改めて拍手を送りたい。