2012年3月18日日曜日

後姿

あの頃。
私たちはいつも、ぼんやりと、夕方になるとその公園を訪れた。
何があるわけでもない、いや、はっきりいって何もない公園。でも、何もないところが私たちは気に入っていた。何もないからかけっこできる、何もないからかくれんぼもできる。何もないから。
そう、何もない、ということが、私たちを豊かにしていた。

その日、彼女は砂の上に拾った枝で絵を描いていた。いろんな動物の絵を描いた後、私に、トトロの絵を描いて、と頼んできた。
だから思いっきり大きなトトロの絵を描いてやった。
すると、彼女は、ひとりぶつぶつ呟きはじめた。
何を呟いているんだろう、そう思ったけれど、なぜだろう、話しかけてはいけない気がした。だから私は少し離れたところから彼女をじっと見つめていた。

「トトロ、今度何処に行く?」
「うん、今度はね、お空に行くんだよ」
「だから猫バス呼んでちょうだい」
「うん、でもね、お空飛びたいの、いいでしょ?」

娘は、どうも一人芝居しているようで。これはますます話しかけてはならぬと私はさらに数歩後ずさって、彼女を見守った。
もうすっかり違う世界で、トトロとお話ししているらしい娘は、ひとりてこてこ歩いては、何かする仕草をしている。

あぁ、私にもこんな時間があったな。私は思い出す。子供の頃の一人遊び。
そして一枚、ホルガで撮った。彼女の後姿。

多分、私もあの頃、こんな後姿をしていたに違いない。そう思いながら。