2014年8月18日月曜日

綻び

彼女の当時の彼が、私のサイトを見つけ、そこにあった性犯罪被害の体験談を読んで彼女に教えた。それが彼女と出会うきっかけだった。
彼女は「貪るように読んだよ。ああわたしがここにいる!って思ったんだ」と、私と会った時震えながら言った。
まさか自分と同じ目にあったひとが他にいるとは、まさか自分と同様の人間が他に存在しているとは、その当時彼女には思えなかったという。それが、いた。
だから、焦ったし、会いたいとも思った。
会いたいと思ったけれど、恐くもあった、と。
彼女は言っていた。

当時まだ彼女にはリストカットの痕はなくて。
きれいな細い細い腕をしていた。
そして傷だらけの私の腕を、撫でるように見つめたのだった。

その彼女は、徐々に徐々に、坂を転げ落ちて行った。
遠い北国の親たちが駆けつけなければならないほどに、崩壊していった。
そして、とうとう、その親に連れられ、北国へ帰ってゆく。

そこからまた、彼女の怒涛の日々が始まる。
それまで信頼していた医者から離れ、親に言われるまま必死に前向きになろうと努力もしたが、崩壊は音を立てて彼女を襲うばかりで。

気づけば、彼女はリストカットを繰り返す毎日の中にいた。

何度入退院を繰り返したろう。
それでも、彼女のリストカットへの衝動は、とどまる様子を見せなかった。

もう私はどうだっていいんだ、
どうにでもなれってんだ、
だれも私のことなんて必要としていないし、
もう私なんていないほうがいいに決まってる。

彼女はよく、そう言って嘲笑した。自分を嘲笑することでせめて、自分を保っているかのように。

私はそのたび、だまって電話を握っていた。

ただ黙って、そこにいることくらいしか、私にはできなかった。
遠く離れて、
彼女に何かあっても駆けつけられる距離ではない私にできるのは、
そのくらいしか、なかった。

そんな彼女と、紡いだ時間を、最近見返していた。
彼女の綻びは、もうこのころからあったに違いないのに。
どうして私は気づけなかったろう。
そばにいる間に気づけていたら。
なんて、もうどうしようもないことを、つらつら繰り返し、思っている。