2013年5月20日月曜日

彼女の肖像2-6


あの約束を、私は一時たりとも忘れたことは、ない。だから、彼女と相対していて、つい手助けの手を差し出してしまいそうになるとき、心の中私は自分を平手打ちする。今この瞬間、手助けすることは簡単だ、でも。彼女はそれを果たして望んでいるのか? 今手を差し伸べることが果たして彼女にプラスになるのか? その問いが私の内奥でぐるぐる駆け巡る。
だから私は常に常に、自分に言い聞かせている。
同情は絶対にしない。その場かぎりにしかならないような手助けもしない。私は、あくまで彼女を、病を背負った彼女として扱うのではなく、病は彼女の一部に過ぎないとして接するのだ、と。
その時私達の右手からすうっと光の筋が伸びてきた。
「お、夜明けだよ、ほら」
「あ、本当だ…」
「よし、あの展望台まで歩こう、展望台から朝日見よう」
「うん」
私の足だけだったら、ここから数分で行ける展望台。でも。彼女が歩くとそれは、十五分近くかかるのだった。
そうしてようやっと辿り着いた展望台から、私達は並んで朝日を見つめた。お盆のように丸く燃える橙色は、一歩一歩、地平線から昇ってくる。まだ空に残る黒雲に時折呑みこまれたりしながら、それでも。
「足、どう?」
「痛い」
「どうする?」
「もうちょっと頑張れる」
「そっか」
「うん」
彼女のもうちょっとという言葉を握り締めながら、私は再び辺りを見回し、そして彼女に伝える。
「じゃぁあの芝生のところまで行こう、今日はもうそれで終わりにしよう」
「うん」
(「彼女の肖像2-7」へ続く)