2013年4月20日土曜日

桜散るあの場所に、

これらの写真を撮影してからほぼ一年が経過しようとしている。その間に、彼女を取り囲む環境も彼を取り囲む環境も、どれほど大きく変化したろう。
今この写真たちを見つめながら、時の為せる業に私は改めて思いを馳せている。

あの日。
私は二人に、ひとつだけ注文を出した。
恋う二人を撮りたい。

彼の二倍は年上の彼女と、若い彼とに、それが醸し出せるのか。
でも何だろう、私の中には、大丈夫、という言葉が浮かんでいた。二人なら多分、大丈夫、と。

彼の日常は、学生でありつつ、演劇(舞台)を目指す若者。
彼女の日常は。
性犯罪被害者でありながら癌と難病・サルコイドーシスを患い治療に励む女。
そんな二人が、二人の日常の延長線で交わることはまず、在り得ない。
それが、ひょんな縁でこうして撮影を共にすることになった。

「僕、モモさんについていきますから。お願いします」
「うん、よろしくねぇ」
彼女の、生まれながらのふわりとした雰囲気が、彼をすっぽり包み込むのを、その瞬間私は見た気がした。

時は桜の花が散り出した頃。

まだ裸足には冷たい土。
項を容赦なく撫でてゆく凍えた風。
二人はカメラの前で震える体を必死に手のひらで擦り合って温め合っていた。
そんな二人に、散り始めた桜の花びらがひらり、またひらりと舞い落ちる。

終わりー!という私の掛け声を聴いた瞬間、若者が、さみぃー!と笑いながら叫んだ。
彼女も寒い寒いと言いながら必死に足を摩った。
それでも、みんな、何故か笑っていた。
朝日は昇り、三人をすっぽり、包んでくれていた。

これから先。
二人が出会うことはもう、ないのかもしれない。
でも。
ここに、在た。二人はここに在た。

私の、ここ、に。