2012年3月10日土曜日

ブランコ

その日いつもの公園に娘と連れ立って出かけた。
珍しく誰もいない公園。

実は娘はブランコに乗れなかった。
いや、座ることはできるのだが、漕ぐことができなかった。
いつだって私が揺らしてやらなければ、ブランコは止まったままだった。

その日、思い切って娘に声を掛けた。「ブランコ、漕ぐ練習、しようか」。
もちろん娘は首を振るわけで。
私は何度も娘の隣で漕いでみせた。めいいっぱい漕いで、空に飛びださんばかりの勢いで漕いで、漕げるとほら、楽しいよ、と見せてみた。
しかし、娘はいっこうに、自分で漕ごうとはしなかった。

もうだめかな、と思った頃。
娘がひょいっとひと漕ぎ。
「できるじゃん!」
私が褒めると、娘はにっと笑って、もうひと漕ぎ。
「すごいすごい!できるよ!空まで行ってごらん!」

それからが大変だった。もうブランコから離れなくなった娘。夕暮れは瞬く間に私たちを包み。
でも。
帰り道、二人手を繋いで、にこにこ笑った。
もう明日から、ブランコできるね。
うん、みっちゃんと一緒に漕げるね。

空にはもう、星がぽつり、光ってた。