2011年9月20日火曜日

今、同じ場所に立てば

この写真を撮った時。
私は怯えていた。ただ怯えていた。
もう消えてなくなりたいと思っていた。この場から逃げられるならいっそ消えてしまいたいって。
逃げ出したくて逃げ出したくて消えてなくなりたくて。だから思いっきり強くシャッターを押した。シャッターを押すことでしか、私は逃げられなかったから。

あの頃私の世界はモノクロで。他人と共有できるはずのカラーの世界は或る日反転したままピクリとも動かなくなった。以来私はモノクロの世界の住人になった。

突如のっぺらぼうに見えて来る人、人、人。のっぺらぼうのヒトガタが押し寄せて来る。耳を塞いでも目を閉じても、それは怒涛のように。
だから私はこの時、逃げ出した。一瞬でもいい、ヒトガタの群れから逃げ出したかった。そうして逃げて、私は暗い暗い階段の陰に隠れた。
隠れながら、見上げた窓。
そこには相変わらずのっぺらぼうのヒトガタや巨大なビルがうねうねとうねっており。
私の心臓はもう、止まりそうなくらい、波打ってた。喉が潰れそうなほど、声なき悲鳴を上げながら。

どうして私の世界はこんなになってしまったの。どうしてどうしてどうして!
ただひたすら、その問いが私の中、ぐるぐる回ってた。

今、同じ場所に立てば。
私の世界は仄かに色を帯びて在る。人波もヒトガタの群れなんかじゃなく、一人ひとりがちゃんと違う顔をしており。眼も鼻もちゃんと在って。
それでも。背筋が寒くなる一瞬があるんだ。
私の瞼の奥には、まだあの映像が貼りついていて。いつまた自分があの世界の住人に戻ってしまいやしないかと怯えながら。ここに、私は、在る。