2011年9月1日木曜日

幻霧景Ⅰ-16

誰の中にも、恐らくあるであろう、
帰りたい景色。
でもそれは決して、たとえば「旧き良き日本の風景」というような、特定の場所や時を指示してしまうものではなく、もっとこう、具体的な形がすっかり溶け果てた後に残る、一つの小さな塊、或いは芯、といったようなもの。
とても懐かしく、同時に途方もなく切なくて残酷で、そして、何処までもやさしくやわらかい、
帰ろうとする者をすべてあるがままそのままに受容するであろう仄景色。
そういったものを、私は、描きたいと思った。

まだ夜が明ける前の、朝露に濡れる芝の上を走り、転がり、横たわり。
そして、ぱっくりと明けた東の地平線から真っ直ぐに伸びて来る陽光は、瞬く間に辺りを照らし始め。
それまでおぼろげでしかなかった様々な世界の輪郭が、露わになってゆく、そんな中で、撮影した。

(続く)