2011年7月5日火曜日

鉄棒

当時住んでいた部屋は小学校のすぐ裏手にあった。そのおかげで玄関を出ると目の前に教室や校庭が広がっていた。時折休み時間にベランダから娘が手を振ってくることもあった。

その小学校の校庭の、一番端っこに、その鉄棒はあった。
いつ見ても、他の遊具より人気がないらしい鉄棒。鉄棒を使って休み時間に遊ぶ子は今はそれほどに少なかった。
私はそんな寂しげな鉄棒が、いつも気になっていた。

ふとカメラを構え、シャッターを切る。
それをプリントして、はっとした。
鉄棒の周りには、幾つもの足痕がちゃんと残っているじゃないか。
あぁそうか、私が見ている時たまたま鉄棒で遊んでいる子がいなかっただけで、実はここで遊んでいる子たちもちゃんといるのだ。
そう思ったら、なんだかほっとした。

子供の頃、私は鉄棒が大好きだった。別に得意だったわけではない。ただ、
鉄棒にあがった分だけ、背が高くなって、世界をその高いところから見回すことができる、そのことが、私は心地よかった。
片足をかけてくるくる回って着地する。それを繰り返しているといつの間にかふらふらになってしまうのだが、そうやって見る世界もまた、私には面白いものだらけだった。

娘に或る日尋ねてみた。「ねぇ鉄棒って好き?」
娘は即答。「キライ」。
え?なんで? だって今の担任、自分が鉄棒がうまいんだって自慢ばっかりするんだもん、なんか嫌だよ。そうなんだ…。あ、でもね、自分で好きに鉄棒やるのはいいんだ、面白いからね。そうだね、面白いし楽しいよね。うん。
子供はよく大人の様子を見ている。大人のすることなすことちゃんと見ている。私は心の中どきりとしながら小さく笑った。