2011年7月14日木曜日

幻霧景Ⅰ-03

それは桜の樹、もういつ終わりが来てもおかしくないほどの老木。
私がこの場所を最初に訪れた時から、勿論ここにずっと在り続けている。
大きく枝を横に広げ、それはまるで子供らを抱き抱えるかのような格好で。
すると少女が何も言わずそこに登り座りこんだ。
それを見ていた彼女が、幹の一番根元にすっと腰を下ろす。

まだ夜が明けきらない中、私達はそうして少しずつ少しずつ動き始めていた。

もう桜の花ががすっかり散り落ちて、地面を覆う芝は緑に輝いている季節。
しっとりと露に濡れた芝が、私達の足をすっぽりと包み濡らしてゆく。