2011年6月10日金曜日

海を渡る鳥たち

その時、ぎゃぁぎゃぁと少し掠れた、潰れたような鳥の鳴き声が響いてきた。驚いて振り返る。そこには一列になって波間を渡る烏たちの姿。
私はその見事な列にしばし息を呑む。烏がこんなふうに飛んでゆくのを、私は初めて見た。一糸乱れぬその鳥列。西の地平線に今落ちんばかりに傾いた太陽目掛けて、真っ直ぐに飛んでゆく。

気づけば私は、その鳥たちを夢中で追いかけていた。波に足がはまるのもお構いなしに走っていた。もちろん私などが追いつくわけはない。彼らはぐんぐん小さくなってゆく。
こんなふうに走ったのはどのくらいぶりだろう。子供の頃はこうやって思い切り走っては転んで怪我をしたっけ。生傷のたえない子供だった自分。
いつから妙な分別を身につけた? そうして身は徐々に徐々に重くなり、走ることを忘れていった。
こんなにも、気持ちがいいものだったのに。