2011年4月5日火曜日

木陰に横たわり、

日の出直前から動き出していた私たちのところに、白い白い透き通るような陽光が届き始める。同時に辺りには陰影がくっきりと浮かび上がり出し。
娘の横たわる場所にも、樹々の影や草葉の影と共に、ほんのりと日差しの輪が。

目を閉じて横たわる娘をじっとファインダー越しに見つめながら思う。
こうして毎年一度、ふたりきりでカメラの向こうとこちら、向き合うようになってどのくらい経つだろう。成長著しい娘は、ぐんぐん変化してゆく。今覗くファインダーの中、彼女はその年齢よりもずっと女らしく見えた。あぁ彼女は女なのだ、生まれながらにして女なのだ、というそのことを、痛感する。

昔、誰だったか、女は子宮で思考する、と言っていたのを思い出す。
その子宮を、彼女も孕んでいる。子宮という小さな宇宙を。その宇宙はやがて明かりを燈すようになるのだろう。そして膨らんで膨らんで、命を生み出す。
私の子宮がかつて、そうだったように。

ねぇママ。目を閉じたままの娘が不意に声をかけてくる。
なぁに。
ママさぁ、私のことどうやって産んだの?
ど、どうやってって???
子供って何処から出てくるの? 誰が一番最初に抱きしめるの?

娘の純粋なその問いに、私はあぁなるほどと心の中頷いた。何処から出てくるかはいずれ教えるとして、今はもうひとつの問いに応えなければ。

ママが一番最初に抱きしめたんだよ。
そうなの? お医者さんじゃないの?
違うよ、お医者さんや助産婦さんは、あなたを取り上げてくれて、すぐ、ママの胸のところに置いてくれたの。だから小さなやせっぽっちだったあなたのことを最初に抱きしめたのはママだよ。
ふぅーーーん。

ふぅーーん、と言いながら、目を閉じたまま、彼女の口元がにっと笑う。私はファインダー越しにその変化を見つめながら、ちょっと笑んでしまう。

その瞬間、真っ直ぐに真っ直ぐに、東の空から朝陽が弾けて飛んできた。私たちははっとそちらの方を振り向く。

ママ、私のこと産んでよかった?

彼女はこう、何と言うか、唐突にこういうことを尋ねてくる。油断ならない。私は苦笑しながら彼女に応える。

当たり前でしょ。あなたは私の誇りだよ。

遠くで鳥たちの啼く声が響いている。まるで朝陽を讃えるかのように。
私たちはじっと、その声に耳を澄ます。