2011年2月8日火曜日

樹よ

娘がベンチから降りて、私の隣に立つ。
そうして改めて樹を見上げている。

ママ、この樹、お化けかもしれない。
え?なんで?なんでお化け?
だって、こんなに大きいんだよ。
ははは。そうかぁ、お化けかぁ、でもママには、今もこの樹の鼓動が聴こえるようだよ。

ふわぁっと私たち二人の髪に触れて流れてゆく涼やかな風。同時に、大樹の枝葉も、ざわわわわと音を奏でる。
私たちはじっと樹の前に立って、その音を見つめる。

ママ、やっぱり、お化けは取り消すよ。
なんで?
だって、今の音、すごくやさしそうだったから。
うん、そうでしょう? この樹の奏でる音は、いつでもやさしい。
ママが生まれる頃にはもう在ったんだね。この樹。
うん、もっともっと昔から、ここにこうして在ったんだよ。

大樹は悠然と、あたりに溶け込んで、決して自ら目立とうとしない。
それでもここを通る人は誰もが気づくだろう。この大樹の存在に。
そして、ほっとさせられるのだ。
あぁ、この樹はなんて、やさしいのだろう、と。