2010年12月17日金曜日

私は海に行くと、ついじっとしていられなくなる。海に引き寄せられてしまう。引き寄せられて、おのずと入ってしまう。それが冬であっても、いや、冬なら尚更に。

水平線の辺りで燃え上がる雲。低い音を立てて砕ける波。その日の波はまるで怒っているかのようで。
何処までも何処までも、揉み荒れていた。

カメラを持ったまま、一歩、また一歩。引き寄せられるようにして。
私は気づけば、胸の辺りまで海に沈んでいた。カメラを濡らさぬように、ということだけは頭の中はっきりと意識があったが、それ以外は何もなかった。
あるのはただ、
海と私と。それだけだった。

あぁいっそこの海に溶けてしまいたい。
何度思ったことだろう。
でもそのたび、溶けることのできない固い確かな肉体を思い知らされるばかりで。
でもそれは、哀しい、わけではない。
どちらかといえば、多分、嬉しい。
私はまだ生きている、生きなければならないんだ、と、言われているようで。

結局その日、私は頭から大波を被った。咄嗟に振り上げた腕の天辺にはカメラが在り。
不思議とカメラは、殆ど濡れずに済んだ。
でも正直言うと。そのまま泳いでしまいたいくらい、気持ちよかった。