2010年12月3日金曜日

横たわり、

その日、午前三時頃から私たちは動き出した。まだ真っ暗闇の中。起き出して、タクシーに飛び乗って、目的地へ。

彼女が何となく手持ち無沙汰でいるのを見て、私は、枕でも持っていく?と尋ねた。
すると彼女は嬉々として、それを抱いた。

朝陽が出るか出ないか、それを見定めて私たちは撮影を始めた。
林立する木立ちの中、てくてくと歩きながら、私は折々にシャッターを切っていた。

彼女がふっと、立ち止まり、徐に抱いていた枕を土の上に置いた。そしてくぅっと小さな息を立てて、目を閉じた。
それがあまりにかわいくて、私はしばし見入っていた。

私の家に逃げ込んでくるまで、彼女は眠れない眠れないと繰り返し言っていた。
でもうちでは、娘以上に大きな寝息を立てて眠ってばかりいた。まるで今まで足りなかった睡眠を、一気に取り戻そうとする勢いで。

眠りは、とても必要なものだ、と今の私なら分かる。眠りがないと、一日が終わらない。一日の区切りが曖昧になって、昨日と今日が一続きになってしまうことさえある。
そうすると疲労がどっと襲ってきて、何をやろうにも気だるく、動きたくなくなる。

どのくらいそうして彼女は横たわっていただろう。
冬の朝。ぐっと冷え込んでいるにも関わらず、彼女はくう、くぅっと静かな寝息を立てていた。

そんな彼女を守るように、朝陽は何処までもやさしく、彼女に木立に、降り注いでいた。