2010年11月12日金曜日

真っ青な空の下、

その日、空はこれでもかというほど澄んでおり。真っ青に、澄み渡っていた。
そんな空の下、私は彼女と会った。
冬も終わりの、頃だった。

工事現場の、金網に縋りついた彼女が、ぽつり、言った。
鍵が開けばいいのに。
開いたら向こう側へ行けるのに。

近親姦に苦しみ続けた彼女にとって、この今目の前にある金網は、彼女を取り囲む金網に見えていたのかもしれない。どこにも逃げられない、どう逃げても捕まってしまう、そうして餌食にされる。彼女の声にならない悲鳴は、いつだって誰にも届かないままで。

鍵のかかった錠を握り締め、こんな錠、壊れてしまえばいいのに、と彼女が言った。
私も、壊れてしまえばいい、と、心底思った。

そうしたら逃げられる。追っ手から逃げることができる。

近親姦の怖いところは、そういうところだと思う。密室という家の中で起こるから、何処にも助けを求められないし、逃げ場もない。

彼女が小さい声で言った。私は絶対、向こう側に行くんだ。
と。

空は青く青く青く。澄み渡り。風が流れていた。彼女の小さな声は、風が運んでいった。そして私は祈る。彼女の地獄が一日も早く終わりますように。彼女が解放されて、羽ばたいていける日が必ず来ますように。

来ますように。