2010年11月4日木曜日

眠り

眠りはいつでも、私から遠かった。幼い頃から、ちゃんと眠れたと思って起き上がって時計を見ても、たいてい四、五時間。病を持ってからは、薬を服用しても三時間前後。

だから幼い頃はいつも、出窓で時間を過ごした。出窓に毛布を引っ張って行って、そこでちょこねんと体育座りをし、空を見上げて過ごした。
真冬でも窓を開け、外との境をなくし、白い息を感じながら、何を考えるでもなく、何を眺めるでもなく、ぼんやり過ごす。その時間は、だんだんと私にとってかけがえのない時間になっていった。

どんなことを想像していても咎められたりしない。思う存分花の香りを楽しんでいても、風の匂いを感じていても、誰にも変に思われたりしない。そういう時間。
日の光が溢れる明るい時間には、考えられないことだった。そういう時間は、人の目が気になって、突き刺さってきて、とても自分の内奥に浸ってはいられなかったから。
私の中から物語が生まれるのも、たいていそういう時間帯だった。

そしてまた、弟と紡いだ時間も、そういう、人が眠っている時間帯だった。
コンコン、と、小さな音がして、扉が開く。弟が顔を覗かせる。私は床に弟の場所を作って迎え入れる。そうして朝まで、朝父が起きてくる直前の時間まで、あれやこれやと語り合った。
あの頃はそう、父や母の話が殆どだった。どうやってこの父や母の手から逃れるか、そればかり私たちは話していた。そして逃れた先で、どんなことをしたいか。私たちはもう、夢中になって語り合った。

今私の隣には、娘が眠っている。娘は私と違って、真夜中に起きることもなく、朝までぐぅぐぅ眠る子だ。そんな娘の眠りを見やりながら、私はぼそぼそと、本を開いたり、天井を眺めたりして過ごす。

転寝するMちゃんの横に、花を飾り、シャッターを切った。
誰の眠りも、邪魔されることなく安らかでありますよう。
私のような子供が何処かにいるかもしれないけれど、それはそれで、彼らの想像の翼が、何処までも広がっていきますよう。
祈りながら。