2010年10月16日土曜日

その日、夜明けと共に私たちは動き出した。走り、追いかけ、追いかけられ、朝の冷気など何処へやら、私たちの体はフル回転していた。
そしてどちらともなく、しゃがみこんだ、その時、朝陽がすっと昇った。
あぁ、なんてまっさらな陽光なんだろう。そう思って、隣の彼女を見た時。
彼女は、泣いていた。

ぽろぽろ、と、涙を零し、泣いていた。
私は彼女の背中に手を置きかけて、直前で止めた。手を置く代わりに、じっと、待った。
声もなく、ただぽろぽろと涙を零す彼女を、
私は美しいと思った。
だから、シャッターを切った。

それはちょうど彼女の、迷いの時期だったんだろう。
私が死んだら、私のカメラのひとつを貰ってね、なんてことを、酒を飲んでは繰り返し言っていた。酒も、飲むというより飲まれるという具合で、最後はぐでんぐでんになって、床に倒れるのだった。私はそんな彼女に、誰がカメラなんて受け取るもんか、あんたのカメラでしょ、あんたが撮らなきゃしょうがないでしょ、と、言い返した。
その頃にはもう、彼女はぐーかー寝息を立てているのが常だった。

冬の早朝。
ちょっとじっとしていると、手足は凍えてきた。でも彼女は、ぽろぽろと涙を零し、泣いていた。私はそんな彼女を、じっと見つめていた。

あれから何年が経つのだろう。
彼女は、迷いの時期から抜け出ただろうか。もうちゃんと自分の足で歩いているだろうか。私はその後の彼女のことを知らない。
ただできるなら、彼女が自らの足で立ち上がり、歩き出し、しかとこの地をその足で踏みしめていますよう、祈るように思う。