2010年10月13日水曜日

私はこの華の名を忘れてしまった。花屋で確かに訊いたのだが、家に帰る頃にはすっかり失念してしまった。
でも。
私はこの華に、一目惚れしたのだ。可憐な花たちがこぞって並ぶ花屋の中、何故かひとりだけ厳つい装いで、奥に隠れているこの華に。

家に帰り、水切りをして、大きめの花瓶に生けて、私はゆっくりその華を眺めた。何という存在感なんだろう。ものいわぬその姿に、私は半ば圧倒されていた。
花が元来持っているだろう可愛さ、可憐さなど何処にもない。微塵もない。それでいて、「私が華だ」と言わんばかりの咲きぶり。
久しぶりに、スターを見つけた、そんな気がした。

二日ほど花瓶に生けていただろうか。
ふと見ると、内側の細かい花びらが、少しずつ少しずつ外を向き始めている。なるほど、こうやってさらにこの華は咲いていくのか。私は納得する。
娘がやってきて、花にそっと触れながら、言う。
この華って何処の国の花? 何処から来たの?
分からない。ママ、知らないんだ。
きっと遠い、暑い国から来たんだね。
そうかな、うん、そうだね、きっと。

カメラを構えて、気づいた。この華は容赦なくこちらに向かってくる、そういう勢いがある。存在感がある。
つまり、正面切って捉えるしか、術がない。
娘に茎の根元を支えてもらい、私は彼女と向かい合った。
じわじわと迫ってくる彼女の存在感を感じながら、私はシャッターを切った。
焼いて、思った。私が負けたな、と。でも、気持ちのいい負けだ。

あの華はどんな季節、どんな花屋になら置いてあるのだろう。あれからなかなか会えないでいる。今度会ったときは。さて、どうしよう。