2010年10月6日水曜日

私は正直、傘が苦手だ。雨が降っていても、差さなくて済むなら傘を差したくない。持って歩きたくない。
フランスにしばらくいたとき、ざあざあ降りだというのに、立派な毛皮のコートを着た女性が、男性と腕を組んで歩いていた。傘なんて知らないわ、といったふうで、それはとても格好よかった。私は横断歩道を渡るのも忘れ、しばしその姿に見入ってしまった。
いいなぁと思った。傘を差さないで歩いても、何とも言われないって、いいよなぁ、と。私はたまたまフランスに傘なんて持っていかなかったから、その時Gパンによれよれのセーターという格好で雨に濡れていたわけだが、彼女の颯爽と歩く姿を見たら、なんだか自分もそれでいいと言われているような気がして、嬉しくなったものだった。

私は幼少期、蕁麻疹がよく出た。特に雨の日、雨に濡れると、足や手の指に蕁麻疹がぶわっと出て、痛痒くなって仕方がなかった。あまりにひどく腫れて、それを見た教師が、体育は休みなさいね、というほどで。見学にさせられる自分が情けなくて、いつも唇を噛んで授業を端から見つめていた。

大人になって。蕁麻疹はそんなに出なくなったが。それでも、雨の中、傘を差して歩くことは好きじゃない。雨自体は結構好きだったりするのだが、傘、が、だめだ。
そんなとき。
娘と二人、雑貨店に入ってあちこち歩き回っていて。一本の傘を見つけた。赤い傘に、白い細かな斑点が散っている、そんな、何処にでもありそうな傘だった。でも。
何故か私は一目ぼれしてしまった。
ねぇ、これ買ってもいいかな? と娘に問うと、娘はびっくりしたように、ママが傘買うの? いいじゃんいいじゃん、買いなよ!と言う。その言葉に後押しされて、私は結局その傘を買って帰った。

それからというもの。
雨の日が、ちょっと違ってきた。お気に入りの傘を差してもいい日、になった。
面倒なのは変わりないが、でも、好きな傘を広げるのは、結構気持ちいいものなのだということを知った。

友人と、砂丘を訪れた際、ふと彼女の傘が目に入り、ちょっとそれ貸してくれる? と、私は柵にその傘を立てかけてみた。
晴れの日に咲く傘。なんかそれだけで、素敵な気がした。
もちろん今でも、雨の中、娘と自転車で走り回ったりする私だが。傘も結構、格好いいもんじゃん、なんて、最近は思っている。