2010年10月2日土曜日

水面

その池は、のっぺりとした緑色の水を湛えていた。長いことそこにとどまっている、そんな水の色だった。
そして水草が、要所要所にぽっくり浮かんでいた。
その様子は、ひとつの静止画で。まるでそこだけ、時が止まったような、そんな感じがした。

空は人の心を映す鏡、とよく言う。私はそれに、水面も付け加えたい。
水面を見つめるとき、人は自分の心の状態をそのまま、その水面に移し変える。だから水面は、ありとあらゆる映像を、そこに映し出す。

その中には、悲しい映像もあるだろう。たまらなく楽しかった映像もあるだろう。そのどれもが等しく、水面には浮かび上がり。
あぁそうか、鏡というより、スクリーンなのかもしれない、水面は。

その映像は、ひとりひとり違うもので。だから、目には見えない映像が幾重にも水面で交叉しているに違いない。
今たとえば、私と、私の隣に立つ誰かが、同じ水面を見つめていたとして。それでも、そこに映し出される映像は、ひとりひとり、違う。決して重なり合うことは、ない。

ふと我に返り、緑色の水を湛える池の姿を改めて見つめる。
ぴくりとも動かない景色。それはもしかしたら、
天国の池のようで。
空の隙間からぽとっと落ちてきた、天国の池の姿のようで。

カシャッ。
シャッターの音が、ひときわ高く、あたりに響いた。