2010年6月8日火曜日

滑らかな腕

私の腕は、傷だらけだ。
一時期、これでもかこれでもかというほど、自分で自分を切り刻むしかできなかった時期があった。その名残で、私の腕は、目を瞑って触っても傷跡が分かるくらいに、でこぼこしている。

今時折、その頃の私の年頃の子から、声が届く。私もそうした勲章が欲しい、と。
私の傷跡は勲章なのだろうか?
或る意味で、そうなのかもしれない。その傷を負ってしか、生き延びることができなかった時間があった。その時間を越えてくることができた、という意味で、勲章なのかもしれない。でも。

傷は傷、だ。
もう二度と元の滑らかな腕には戻れない。

だから私は、そうした声が届くたび、小さく笑う。他にどんな表情をしていいのか分からないから、小さく笑う。何処へ向けてでもなく、小さく。
そうして思う。
これがたとえ勲章だとしても。私はあなたの今の滑らかな腕に憧れるんだよ、と。

後悔しているわけではない。あの頃はああしてしか私は生き延びることができなかった。だから、こうなってでも生き延びてこれたことを、今は誇りに思う。
それでも。
私は滑らかな腕を見ると、眩しくて眩しくて。あぁよかった、と思うのだ。
この腕が滑らかで、本当によかった、と。